死生観

いよいよ選挙も近くなってきたので、マスコミでは評論家と称する方々が、色々な角度から政策についてものを申しております。珍しくNHKから、アンケートの電話が自宅や会社にもかかって来ました。

そんな中、NHKの朝のラジオを聞いていると、評論家と称する若手の方が、少子化問題対策としての政府の対応がおかしいという話をしていました。まとめると、おおかたこんな話になります。

まず、自分たち若者世代としては、結婚するにしても大変で、そもそも一昔前の結婚とは違って、一生二人で添い遂げるなんて信じられない世界だ。だから、結婚するにしても、もっとフリーな関係での結婚(どんな関係か分かりませんが)などがあると望ましい。フランスなんかは色々なスキームがあってうらやましい。

フリーター同士などでは、今の日本では結婚したくても生活そのものが難しく、こうした若者たちにももっと手厚く援助をしないと、結婚して彼らに子供を産んでもらうことは難しい。

子供についても、若者のカップルそのものに充分な支援が行き届いていないのに、彼らに子供を産んで欲しいと言っても、保育制度も資金面でも不十分なので、子供を産む気にもなれないだろう。仮に子供を産んでも、親が生活できなければ、国がそれらの子供たちの面倒を見られるような仕組みも必要である・・・。

ざっとこんな調子です。ひとくくりで言えば、結婚も出産も子育ても、すべて国家がちゃんと面度を見る仕組みを作らない限り、少子化問題は解決しない、というのが論旨です。

まあ、日本は言論の自由があるので、自己中心的なものの言い方をしようが、何を言おうが自由ですが、そんなにフランスが良ければ、フランス国籍を取るべく努力をした方が早いのでは?という感じもします。

それはさておき、フランスだって、私の知る限り、確かに若夫婦が結婚したら居住費の補助などはあるが、だからといって、何から何まで面倒を見るほど財政の余裕はないし、それぞれ一長一短があります。

そもそも、結婚や子供を産むのに、行政の制度を見て、充分なる支援策が無いので結婚は取りやめ、子供も産むのをやめるというのは、個人の自由ではありますが、本来結婚や子作りは動物的行為であって、人間も動物である限り、極めて原点的な行為であると考えてみることも必要ではないでしょうか。勿論国の支援が充分あることは良いことですが、所詮国は国、自分の人生は自己責任において進めるしかないと思います。

上記のような話が公共放送の場で普通に語られるということは、やはり人間が生きてゆく上での根源をどこに置くのかの根本的な覚悟が足りないのでは無いかと思ってしまいます。勿論そうした覚悟が一番必要なのは政治家であることはいうまでもありません。

これから人口が減って行くのに経済成長は難しいはずで、色々と捨てなければならない事もいっぱいあるはずです。伸ばすものや、拾い上げるものは必要ですが、その反面、捨てることをしなければ、成長どころか、定常さえもおぼつかないでしょう。

捨てるとすれば、簡単な話、我々年寄りを捨てるしかない!! でも、それを言い出す勇気のある政治家などいない。そんな折、同じNHKのTVで、宗教学者の山折哲雄さんが良いことを言ってくれました。

第二次大戦直後くらいまでは、人生わずかに50年だった。しかし、最近は80年だの、90年になってきた。人生50年の頃には、日本には「死生観」という言葉があった。みんな40くらいになったら、そろそろあの世のことを考えて過ごしてきた。生きると言うことは、即死ぬという言葉と表裏一体のことであることを充分認識していた。

逆に言えば、人生生きるということは難行苦行で、人生なんてやっていられないというのが普通だった。そもそも、右肩上がりの時代なんて無かった。江戸時代でも定常時代で、その間に飢饉や災害があるというのが普通の世界だった。

それがここほんの僅かな時間に人生80年時代になると、医学の進歩や健康志向などいろいろあって、50年時代の人生の処世訓である「死生観」などどこかにすっ飛んでしまい、あたふたして生きているのが現代である・・・。

というわけで、今の若者の世代の方には、時代の原点に戻って、右肩上がりはない。だから、飯を食うために地べたを這いずり回って生きてゆくしかない。そうした中で、一点の光でも見いだせれば、それが希望というものかもしれません。

先日、私より少し先輩の高倉健が亡くなりました。生前、アナウンサーがインタビューで「あなたは何で映画俳優になったのですか?」と聞いたら、彼は「飯を食うためです」と答えた。だから、私生活なんてあってもほんの1%だ、と。

彼の母親は、自分の息子が背中に入れ墨をして映画を撮っているのを嫌がっていたが、彼としては飯を食うために、自分は身を落として俳優をやっているんだと言っていました。これは重い言葉だと思います。

それでも、若者に対しては「歯を食いしばってがんばれ!」とあえて言いたいです。そして、一点の光でも見いだしてください。