自治体の悩み(2)

関東のある大きな市の市長さんから頼まれて、企画室の室長さんを教育的立場から、中央省庁である経産省(当時の通産省)にご案内して、霞が関の国家計画と、地方自治体の計画をどうマッチングさせるかという観点で、話をしに通産省の課長に引き合わせた。

企画室長は、がちがちに堅くなっていたので、そんなに緊張することはありませんよ、我々の税金で役所は成り立っているのですから!と言っても、考えてみれば、地方自治体は、基本的に、霞が関から各県庁に、その県庁の各部門と市の企画室長レベルでのコンタクトで、色々な計画を進めるわけで、間違っても、市の一室長レベルが、中央省庁の課長レベルと直接話をする機会はまず無いと言っても過言では無いでしょう。

一通り通産省のプロジェクトの概要を聞き、一度市に帰り、検討会議を開いた。市としては、中央からの補助金をもらって進める案件では、市の自己負担額を捻出しなければならないというのは常識です。そこで来年度の予算でどう組み込むかという話をし出したので、この市は3市が合併して出来た市なので、それぞれの市が持っていた、事務所や施設があることを市長からは聞いていたので、来年の予算などと言わずに、利益を出す事を考えたらどうですか?と発言した。すると室長は勿論担当者も、きょとんとして、とんでもない、儲けるなんて事をしたら怒られますし、そんなこと考えたこともないという。

誰から怒られるのですか? 市民から? 市長から?と聞くと、いや、儲けろなんていう指示は今まで一回ももらったことはないし、そんなことを言われても、わたしたちの仕事は、与えられた金をきっちり使い切ることですから、困りますという。

後刻市長にこの話をしたところ、そうなんだよ、俺は百姓やホテルなどの経営もやっているので、いつも儲け仕事を考えろと二言目には言っているけど、全く分かっていないと嘆いていました。

多分、学校を卒業して、市民のために働く公僕としての自覚を植え付けられて、定年まで粛々と、予算を余すとことなく使い切るスキルを身につけた人たちにとっては、役所で儲けろ等と言われたら、犯罪を犯せと言われるに等しいショックを受けているのではないかと心配になってきてしまいました。

最近は地方自治体のバランスシートを作るというのが流行っていますが、ある意味当たり前のことがなされて来なかったことが不思議と言えば不思議です。私が、M大学院大学の会計学の教授から、地方自治体のバランスシートと言われても良く判らないところもあるので、助けて欲しいと言われ、私の仲間に、授業をしてもらったことがあります。

ことほどさように、人は自分の専門のコースに入ってしまうと、他の世界のことが常識的なことでも判らなくなってしまうようです。私どもは民間で、それこそ経済原則に則り金儲けの権化のような仕事を日々してきたわけですが、上述のようなお役所、学校の先生など、その世界にどっぷりつかってしまえば、民間企業の「金儲け」ということに関しては、全くの素人であり、それを考えろと言うのが無理なのかも知れません。

江戸時代から「士農工商」と呼ばれて、私ども商人は常に一番下のランク付けをされています。しかし一番大事なのは、事業をやるための予算であり、食うための金であり、そうした原点的な「金」を生み出す話について、役所や学者先生がよく分からないで、「学識経験者」のご意見として、下におりてくるという仕組みはもうそろそろ考え直す時期に来ているのではないでしょうか?

話は戻りますが、上述の企画室長は、結局市長の意見に従って、泣く泣く?いやいや?「貸しビル家業?」に手を染めて?立派に予算をひねり出したという話です。