愛社精神と猿

先日、社内で高校サッカーの話になり、都大会で優勝し、全国出場することになった都立高校では、OBたちも大いに盛り上がっているらしいが、なぜそうなるのか俺にはよく分からないし、自分自身では全然そんな気にならない。愛校精神や愛社精神とはなんぞや、という発言から議論になった。

そこで私は、人は生まれながらにして一人では生きられない動物で、生まれてすぐに両親の世話になり、隣近所から始まって、保育園や幼稚園、小学校、中、高、大学、さらに進んで会社に就職など、どこかの群れに属して生きているはずです。そこの群れが本人にとって気にくわないとか、そぐわないとかはあるでしょうが、それでも、やむを得ずでも属していることは事実です。会社でも、こんな会社にいたくないと思ったら、やめて飛び出すのは自由ですが、そんな簡単に次の飯を食う場所は見つからない。平凡でなく、実力があり、どこででも飯は食えるし、勉強も出来る。頭も良いし、健康だといった人の中には、時に一匹狼的な動きをする人、あるいはそれが出来る人がいます。しかし、それは特殊な人で、大方の一般人は群れの中でそれなりの苦労をしながら、何とか飯を食っているというのがごく普通で、それが群れに生きる人間像といっても過言ではない気がするという、解説じみた話をしました。

その上で、あえて付け加えるならば、そうした能力のある人は多分一人で独立して、立派な能力を生かして成功できる人かもしれません。しかし、意地悪な言い方をすれば、一匹狼的な生き方をするなら、まず生きること自体が難しい。

例えば、一歩外に足を踏み出したとたん、大勢の税金で作った公道を通らずにはどこにも行けません。そんな指摘をしたら、自分は税金を払っているから道路を使う権利があると言うかもしれません。しかし、税金を払っていること自体が、日本国の都道府県のある市区町村に住み、生活をしているということですから、否応なしに「群れて生きている」という事になります。

私の経験では、これも一般論ですが、そうした人の多くは往々にしてコミュニケーションをとるのが難しいようです。自分からは積極的にアプローチはしない、また情報も発信はしたくない、でも相手の情報はもらうなど、よくあるパターンです。

私はあえて愛校精神を持てとか、愛社精神を持て等とは言いませんが、少なくとも仕事(プロジェクトとい言い換えた方が分かり易いかもしれません)をするときには、グループであるプロジェクトを推進するときに、こうした一匹狼は多分使いにくいはずです。

以前、若手の社員が私に、「あの人とは仕事をしたくありません」と言って来たので、あんたいつからオーナー社長になったんだい?と聞いたことがあります。会社から与えられたグループで仕事をしろと言われて、嫌いな人がいるから一緒に仕事をしたくないなんて言える会社はどこにもありません。

小学校の席替えではあるまいに、と言ったら、村野さんならどうします?と聞かれたので、普通は会社に好きな人なんてほとんどいないので、人をどういう役割で使えばいいかだけを考えれば済む話と言っておきました。

そうしたら、村野さんはすごい! 嫌いな人と仕事が出来ることがすごい!と言われ、ほめられたのかけなされたのか分かりませんが、その後彼は立派な仕事をしているようですので、少しは理解してくれたのかもしれません。そもそも、「苦手な人」と言うなら何となく分かりますが、仕事で「嫌いな人」と言われると、仕事をやるのに好き嫌いでやるんかいな?と思ってしまいます。

ここまで書いて、突然昔の話を急に思い出しました。私がまだ若く、大手商社の管理部門に籍を置いていた頃、あるとき突然2・3列先に隣同士で座っていた壮年の男性と若手の男性が立ち上がってけんかを始めたのです。

壮年の男性が若手に向かって泣きそうな声で「おまえはいつもそういって俺のことを馬鹿にしやがって!!」と言って取っ組み合いを始めたのです。若手も殴られるままでもまずいので、そこそこ応対はしていましたが、私が興味を持ったのは、あわてて誰かがすぐには止めに入らなかったことです。

後で課長に聞いたら、こんな事は昔から年中あったことで、殴り合いを少しさせておいた方がかえって後始末が楽なんだということを聞かされました。さすが大会社、喧嘩のマニュアルまでしっかりしていると感心した次第です。私は現役の頃には本当の暴力をふるったことはありませんが、口の暴力はかなり使った気がします。最近は大いに本当の暴力をふるおうと思っています!!

こうしてみると、最近は社会が高度化し、生活が便利になり、人と人とのつながりが少なくなり、結果として親が子供を川に投げ捨てたり、いきなり人を殺したり、群れられない動物に成り下がってしまったような気がします。そこで結論としては、やはり猿の方がよほど社会性に富んでいるということになりそうです。

インドネシアのある猿軍団は、口をぱくぱくして、いつもにこにこ、ニシキヘビが現れれば、群れ総出で追い払い、別の群れとえさ場争いの場になると、若手が相手の若手と取っ組み合いをしたかと思いきや、すぐに離れて弱い群れがえさ場を明け渡す。

なぜ徹底的に戦わないのかというと、少し組み合っただけで相手の筋力、体力、話力はすぐ分かるので、無駄な抵抗をせずに、弱いものはえさ場を明け渡すのだそうです。さらに、中年の猿が群れから外れると、他の群れの猿になろうと手を尽くして策を弄する訳です。仲間にさせてもらうために、相手の若い雄に、戦えば勝てるのだが、あえて芝居を打っておしりを向けて、相手にマウンティングをさせて安心させ、結果として仲間として認めてもらうという、まさに群れで生きるための教科書のような生き方を猿がやっているのです。

やはり猿は偉い、これからは猿を見習いましょう!