命に関わらない限りは

いかにも物騒なタイトルですが、そんな話ではなく、日常の生活信条としてのことばです。私をはじめ、一般には、何かあればすぐ文句を言い、特に最近は、文句で済めばいいが、いきなりぶすっと刺されたりする物騒な世の中になっています。

私の昔からの友人で、ラオス青年海外協力隊の第一次隊員であった星野昌子女史をご存じかと思いますが、ご紹介しておきます。彼女は若い頃からNGO的存在で、現地に溶け込み、現地語は勿論達者で、底辺の人たちの面倒をよく見られていました。

協力隊を卒業後も、大使館やJALなどに勤務の傍ら、NGO活動に身を投じ、インドシナ難民救済のために、バンコクで、日本のNGOの先駆者的存在である現在のJVC(Japan International Volunteer Center、日本国際ボランティアセンター)の立ち上げに関わった方です。

現在でも、JVCの特別顧問であり、私が知っている限りでも、神奈川県の「かながわ女性センター」の館長を勤められ、また日本NPOセンター代表理事なども歴任。日本のNGO活動を国際的な分野に押し広げた先駆者でもあります。

その他にも、法務省入国管理局「難民認定審査参与員」というややこしいお仕事もされ、外務大臣からも感謝状や表彰状ももらっているはずです。2008年の洞爺湖サミットのときには、世界からNGOが集まって行われる「G8サミットNGOフォーラム」の代表も務められました。

そうした数々の功績が評価され、2012年秋に日本政府より叙勲され、旭日小綬章を授章しました。旭日小綬章とは、公共に対し功労があり顕著な功績を挙げた方に授与されるものだそうです。私は口が悪いので、受賞の記念パーティーで彼女に直接、「星野さん、おめでとうございます。しかし、勲章をもらうと長生きしないって言うから、命には気をつけてください!!」と、お祝いの言葉とはかけ離れた会話をしてしまいました。

しかし、さすがは彼女で、「村野さん、公(おおやけ)の話はどうでもいいんですよ。問題は人間継続的に生きているので、毎日の生活が大事なんですよ! 怒ったり、嘆いたり、毎日忙しいでしょうが、私は最近、命に関わらない限りは文句を言わないことにしているんです」と名言を吐かれたので、それはすばらしい。なるほど、確かに私たち毎日の生活で、なんだかんだと文句を言っていますが、命に関わるような会話ではなくて、ある意味どうでもいいことで、諍いごとを起こしているような気がします。それでも、家内にそんな理屈を言ったら、「あたしにとってはすべて命に関わることなのよ!」と一喝されます、と答えておきました。

彼女は続けて、「うちの旦那だって、どうでもいいビニールの傘を持たせたときにはちゃんと持って帰ってくるのに、たまに高級ブランドものの傘を持たせたときに限って、どこかに忘れてくるんです」とのことでした。

さすが、叙勲者の生活信条はご立派です。彼女の言行録にはまだまだ一杯示唆に富んだものがありますが、別の機会にご披露します。