利益とは何か?

新入生の頃、社長に「君、利益とはなんだか知っているかね?」と聞かれ、若気の至りで、「当然安く仕入れて、出来るだけ高く売るのが利益でしょう」と答えたことがあった。それを聞いて、社長は「それは違う。相手のために一生懸命尽くしてあげれば、何時かは何かの形で返ってくる。それが利益というものです」と言われた。その時は、「そんなこと言っていたら、商売なんかにならない」と考えていた。

数年して、メコン開発でダムを造る仕事に関係するようになった。入札も終わり、受注して、実際に仕事も始まって、ダム工事では最も重要な「ダイバーショントンネル」作りが始まった。これに失敗すると、工期が大幅に遅れ、大変なことになる。

雨季が来て、ある夜、工事中のトンネルに浸水する恐れが出てきて、急遽、土嚢を大々的に築く必要が出てきた。ダムサイトから私に、今夜中にトラック2台分位の空の米袋(ドンゴロスの袋)を調達して、サイトに送って欲しいという依頼があった。

夜でもあるし、困って、穀物で取引先の、ある華僑の自宅を訪ね、事情を話し、頼み込んだ。彼とは以前に米の取引をして、お互いに儲けさせて貰った仲である。彼は二つ返事で引き受けてくれたが、トラック2台分というのは、可なりの量である。

一旦自宅に戻り、待機していたところ、たった2時間ばかりでトラック2台にから袋を満載してやって来た。当時はベトナム戦争を隣の国でやっており、ダムサイトまで70kmくらいあり、ゲリラも出没する危険な状態にもかかわらず、このトラックと運転手も貸すので、ダムサイトまで使ってくださいとのこと。

この華僑にとって、こんな危険な仕事で、一銭にもならない仕事に手を貸す義理は全くない。せめて危険だから、朝になってから出発させようかと迷っていたところ、「構わないからすぐに出発してください」と言う。

とにかくお礼を言って、運転手には充分気を付けていくように言い、ダムサイトには無線で夜中に着く旨連絡した。お陰で夜中中に作業をして、冠水せずに済み、その後順調に工事を進めることが出来た。

後刻、此の華僑にお礼の挨拶に行ったところ、「私の方がいつも商売で良くやって貰っているので、お礼を言うのは私の方だ」と言う。この時初めて、新入生の頃、社長の言った「利益は奉仕のリターン」という言葉を改めて感じた次第。

その後、可なりの年数がたっても、私がアジアに出張するとどこからか聞きつけて、ホテルなどにお土産を持ってきてくれる。私たち日本人も、商売相手との付き合いについては、長く、誠実にという教えはあったが、やはり華僑のように、本国を出て、異国の地で商売をして生きていくための基本的なものの考え方は、とても私どもに参考になるばかりでなく、まだまだ日本の商人などは足元にも及ばないと感じています。