外国語四方山話

いよいよ今年も押し迫ってきました。このブログではこれまで、教育やしつけ、コミュニケーションなど、ややこしい話ばかりを書いてきましたが、今回は少し楽しい話を書いておきます。

現在、パスポートの最初のページには「日本国外務大臣」としか書いてありませんが、まだ海外渡航が自由でなかった時代の私のパスポートには「日本国外務大臣 大平正芳」と大臣の名前とサインも入っていました。それだけ今は誰もが気軽に海外旅行を楽しみ、観光にも行ける国家になった訳です。

  • ハム・アンド・エッグスー

その昔、生まれて初めて海外駐在するにあたり、JALから北極圏通過証なるものをもらって羽田からアラスカ経由でコペンハーゲンへ。そこで仮眠し、デュッセルドルフで宿泊した。ホテルでは、大学時代に習ったつたないドイツ語(ほとんどは山登りドイツ語)でなんとかすり抜け、目的地のロンドンに到着した。

朝、食堂に降りてゆくと、何となく差別された感じがした。窓際の明るい場所ではなく、奥の薄暗い場所に通され、かつそこにはアフリカ系の方も通されていたというだけの単純な理由なのだが。

それは主題ではなく、注文した「ハム・アンド・エッグ」が問題だった。運ばれてきた目玉焼きが卵一つだけの片目だったので、ボーイさんに小さな声で「卵は一つだけですか?」と聞いたら、「お客様が『ハム・アンド・エッグス』とはおっしゃらなかったので」と言われて、「ベリーソーリー」だった。それ以来、どこに行っても朝は「ハム・アンド・エッグスー」と、無意識のうちに語尾が伸び伸びになってしまう。

  • あなたは牛ですか?

シリアの電力局長はフランス語がメインで、英語はほとんどできなかった。彼をUAE(アラブ首長国連邦)の駐英大使に紹介するために、二人でロンドンのタクシーに乗ったときの話。

ある冬の寒い日、ヒースロー空港からの車内で、運転手がいきなり「Are you cow?」と聞いてきた。そこで、私がシリアのおじさんにフランス語で「俺たちは牛かと聞いているぞ」と言ったら、彼は「俺もそのように聞こえた」と言ったので、私は「We are not cow!」と答えた。

それで会話はしばらく途絶えたが、少し走ってまた運転手が「If you are cow, please switch on this…」と言って、運転手の後ろにあるスイッチを指さした。やっと様子が飲み込めたので、フランス語で「俺たちが牛ならば、このスイッチを入れろと言っているぞ!」「もしスイッチを入れると、のこぎりが出てきて俺たちミンチにされてしまうかもよ!」と言ったのだが、彼は未だ理解できなくて、「とにかくスイッチは入れなくてよい」と言う。

「cowはcoldという発音のようだ」という解説でやっと大笑いになった。このように、ロンドンのタクシーの運転手の英語は特殊でなかなか聞き取りづらいし、こちらの発音もなかなか聞き取ってくれないのだ。

  • 桃が食べたいのに

国際会議での同時通訳は大変そうだ。聞いていると、かなり上手下手がある。TPOによって意味合いが変わるので、人の話を聞いて内容を理解し、別の相手に伝えるというのは、なかなか難しい仕事だと思う。

私は若い頃、フランス語の通訳をやっていた。来日したフランスのコンサルタントグループが日本式旅館に泊まり、食事を終えてリラックスしていたときのことだ。

メンバーの一人が「電報を頼んでもよいか?」と聞いてきたので、メモと鉛筆を取りに行って渡した。すると、けげんそうな顔をして「これに何を書けばよいのか?」と聞く。そこで、「これに電文を書いてくれれば、郵便局に出しに行ってくるから」と言うと、彼は大笑いした。

「違う違う、俺は桃が食いたいんだ」と彼に言われて、合点がいった私も大笑いした。フランス語で電報は「la dépêche」、桃は「des pêhes」と、発音がよく似ているのだ。

  • ごちそうと消化不良

当時、通訳をしていて最もつらかったのが、食事をしながらの通訳だ。腹を空かせた貧乏学生にとって、伊勢エビに山海の珍味がずらっと並べられた宴席は難行苦行の場となった。

宴会の始まりにはまず日本側のお偉いさんがあいさつするので、それを聞いて直ちにフランス語に訳す。すると、フランス側がすかさず返礼のあいさつをするので、今度は直ちに日本語に訳す。

こうして通訳をしていると、自分が食べられる時間は誰かがしゃべっている間だけ。ただし、おいしいものを食べながら聞き漏らしてはいけない。これを毎晩繰り返すのだ。

あるとき、突然腹をこわして一日休憩せざるを得なかった。健康に何も問題がなく、食い盛り、働き盛りなのに、なぜか腹を壊した。悪いものを食べたわけでもない。おいしいものの食べ過ぎは少しあったかもしれないが…。

結果として分かったことは、人間、頭に神経を使っていると、胃袋の方の消化活動はしないということだ。国際会議の通訳のように時間で交代というわけにはいかないのだが、もしそうできるなら、私は主食の出るときに休憩したい!

  • とっさの一言

普段使い慣れている短い言葉で、つい失敗をしてしまうことがある。フランスで電車に乗っていたときのこと。電車が揺れて隣のご婦人にぶつかってしまった仕事仲間が、「ごめんなさい(Pardon)」と言うべきところを、ついうっかり「いくらですか?(Combien?)」と言ってしまい、ひっぱたかれたことがあった。

似たような話はいっぱいある。ベイルートの魚レストランで日本人のシニアたちと食事を楽しんでいたときのこと。その中の一人がトイレに行ってドアを開けたら、ご婦人がこちらを向いて座っていた。ロンドン駐在で英語が大変達者な方だったが、飛び上がるほどびっくりして、とっさに日本語で「すいません」と言って早々に退散してきた。

その話を聞いた同じテーブルの仲間は、「そのご婦人に日本語は通じないはずだから、改めて英語で謝った方がいいよ」と彼をからかった。鍵をかけずに用を足していたご婦人も結構大胆だが、紳士のマナーとして、トイレを開けるときには必ずノックする習慣をつけておこう!

  • 元商社マンからみなさまへ

われわれ元商社マンは他にも、それぞれがいっぱい面白い話を持っています。例えば、パリに来たゼネコンの方が「有名なノートルダムという『ダム』を見たい」と言った話とか、ロンドンのホテルで風呂場と出入口の扉を間違えて、素っ裸で廊下に出た途端にオートロックの扉が閉まってしまい、廊下のカーテンで身を隠しながら、唯一知っていた英語で「ヘルプミー」と言って通りがかりの人に助けられた話等々、当時のエピソードは枚挙にいとまがありません。

このブログを読んで頂いた方々に感謝いたします。来年も自分のことは棚に上げて、いろいろと書いてみようと思っております。来年もどうぞよろしくお願い申しあげます。良いお年をお迎えください。