人事異動(転勤、転籍)

会社勤めには人事異動はついて回ります。人は一般的に、ある組織で働いていると、慣れてきて、あまり劇的な変化を好まず、従って大幅な組織変更や、個人の人事異動などはいつも悩みが伴います。

職人さんで、ひたすら壁塗りをやって何十年とか、板金たたきをやって、手の感触だけでミクロン単位の違いを感知できるなどの技術を付けて働いている方は、その人の代わりはいないというのが現実です。しかし、普通の会社の仕事というのは、スピードや中身の違いが少しはあっても、ほとんどの仕事が誰かに変わっても全く問題ないというのが日常です。

それでは自分が人事異動を言い渡されたときに、どう考えればいいのか検討してみます。まずは社内異動(本支店間など)あるいは部署異動(今までと全く違う職種や業種に転籍)などのケースですが、それが俗に言う栄転であれ、飛ばされたのであれ(俗に都落ちなどと言いますが)、どちらにしても、むしろ会社がくれたビッグチャンスだと思った方が良いと思います。理由は簡単で、普通の仕事をしていたら、遅くても半年あれば、大体どんな仕事をやっているのか理解が出来るはずです。逆に、何年もかかってその仕事を習得しようなどと長期戦略など立てても、あまり意味が無いと思います。

比較的若い新人のサラリーマンに私は、半年か一年で、やっている仕事の中身や、その業界のことなど、短時間ですべて勉強し、外部の関係者とも人脈を築き、その上で、更に周りの知識や、業界の問題点、自社の仕事の方針などを、会社の方針とは別に、自分の頭でシミュレーションが出来るくらいになれるはずだとハッパをかけています。

これは実際にそんな難しいことではなく、私自身の経験でもそうですし、ある新入生が、一週間で課長に噛みついていたケースもあります。要するにそう考えれば出来ます。従って、どこかに転勤や転籍を言い渡されたら、また新しい仕事を覚えるチャンスだし、新しい人脈も築けるという前向きの発想が大事だと思います。

自分のケースを参考までに書きますと、まず新入生当日(4月1日)に、社外向けの手紙を書けと言われて(しかも当時、ほとんど出だしは候文です)、原稿を持って行ったら、課長がああそれで良いんじゃない、とあっさり言われましたが、後から考えたら、新人がいきなり「拝啓、貴社ますますご清栄の段大慶に存じ奉り候。陳者(ノブリマスレバと読みます)…」なんていうような文書を書くことそのものが、こいつ変だと思ってくれなかったのが変でした!

又、担当の仕事は、フランスの工作機械の輸入で、注文を受け、機械が横浜に着くとまずは「通関業務」を運輸部の方と一緒に立ち会い、納入先の工場に搬入すると、相手工場の方に手伝ってもらいながら、据え付けをやり、精度調整を自分でやり、検収を受けて、金を請求する。そこまでを担当者がやります。何の経験もないのに、いきなりOJTです。今時はこんな無茶なことはやりたくてもやらせてくれません。

そういう意味でも、自分が担当している仕事以外に、必ず他人、あるいは他部所の人間がやっている仕事なしには回らないはずなので、常に全体がどうなっているのかを、物見高く興味を持つことが、仕事を楽しくする、あるいはスムースに仕事をこなして行くコツかと思います。

転勤についても、2年目に入ったときに、上司から「お前、大阪支店転勤」と言われ、「はいはい」と二つ返事をしておいたら、一週間も立たないうちに、人事ローテンション関係で、大阪は取り止めで、パリ支店勤務だと言われました。大阪とパリ、まあ似たようで、似ても似つかないというか、サラリーマンの人事なんてそんなもんです。だから面白いと考え、仕事に関しては、大阪でもパリでもそれぞれの与えられたところで、きょろきょろしながら、自分のキャリアを積み重ねれば、こんな楽しいことはないと思って下さい。

近頃は、みな分業化が激しく、やりたくても、他人の仕事の分野は実際には手が出せないという事があるかと思いますが、それでも、仕事は連続して、繋がって、一つの仕事が完結して行くはずですので、自分の仕事からどれだけはみ出したところを知るかというのがポイントです。(仕事の仕方については次回書く予定です)

特に最近は海外との仕事も多く、純粋に国内だけで完結する仕事はほとんど無いと言っても過言では無いと思います。では、行った先でどうするか?

まずは大きな目標を設定するのが良いのかも知れません。土地が違えばその地場のことを徹底的に知るとか、国が違えば、その国の歴史や、風俗習慣を徹底して調べるとかです。また、仕事が変わるのであれば、当然ながら、新しい仕事の中身を改めて、幅広く知った上で仕事をこなす、といったような考えをベースにすれば自ずと人脈も出来てくるはずです。

意外と今までやってきた事と異なる仕事に就いた場合、前の仕事の知識や経験が、新しい場所や、新しい仕事に、別な切り口で見られるために、新鮮な意見や方法が出てくる事があります。例えば、私が東南アジアで仕事をしていた経験が、全く気候も風土も違うアラブの砂漠地帯の仕事では、反面教師として、新鮮なアイデアが出たりします。

こうした経験を積むこと自体が、自分のキャリアの積み重ねになるわけですし、仕事で極めて重要なことは自分が実際に経験をするということです。紙の上の議論や、空調の効いた本社の会議室では、実際に役に立つ仕事のアイデアは出てきません。幾らパソコンとにらめっこしても、知恵は出てきません。すべて現場の実体験から色々な知恵やアイデアが出てきます。よく仕事の出来る人が、「勘だけど、この方が良いと思う」などと言われることがありますが、これは実体験が豊富な人だからこそ、勘も働くというわけです。

そういうわけですから、会社から転勤や転籍、あるいは別会社への出向など、移動があったときには、飛ばされたとか、都落ちとか考えずに、ビッグチャンスだと思って、新たな仕事場で、新たな目標を設定して、自分の経験を積んだ方が、自分の人生にもよほどプラスになると思います。第一人生なんて、設計通りになど行くはずがないし、そうであるなら、基本的な方針だけ決めて、そこに向かって、積極的に動いた方が、気分的には楽しいのではないかと思います。是非仕事を楽しんで下さい。