ご立派な会社(2)

どこの会社にもコピーマシンがありますが、裏表コピーとか、拡大縮小など複雑な操作をするとなぜか紙詰まりがして、その詰まった場所も指示があるのですが、実際に詰まった紙を引き出すのは容易ではありません。

そこで、サービスマンにここが調子悪いと言って調整をしてもらうのですが、その時は調子が良くても、何かの拍子にまた元の木阿弥で、機械の調子を伺いながら、だましだまし使っていました。

あるとき、地域のサービスセンターからカウンターの枚数を調べに来た方に、ついでで申し訳ないけど、どうもいろいろサービスの方にやってもらっているけど、根本的に直らないみたいで、一度徹底的にチェックしてみてもらえますか?と聞いたら、彼は快く引き受けてくれて、本来カウンターだけをチェックして伝票を渡せば済むところを、変なおじさん二人につかまって、分解して調べる羽目になってしまった。

彼の仕事ぶりを私の相棒(彼はメーカー出身の技術屋さん)と二人でじっくり見ていると、徹底的にばらして、ローラーや細かい部品も一品ずつチェックしていた。私の相棒によると、彼は良い技術屋に違いないという。なぜ?と聞くと、仕事の手順に手抜きがないと言う。

そして、ばらしては組み立て直して、テストし、又ばらしては組み立て直して、2~3時間かかってやっと終了した。聞いてみると、長年使っているので、結果としてプラスチックのローラーに細いひびが入っていたので、紙送りがうまくいかないことがある。それが原因なので、とりあえず応急処理で、ローラーのひびをテープで押さえて動くようにしたという。

二人でややこしいコピーを幾つか試してみたが、スムースに動くので、突然の修理仕事を依頼したことを詫びて、帰りがけに、「ほんとに助かった。今度は安心してコピーが取れるので、お宅の社長に手紙でも書いておくよ!」と無責任な挨拶をして、その日はおしまいとなった。彼はコニカミノルタの渋谷SSに所属するSさんという方です。

次の日に、相棒からコニカの社長に手紙書くんですか?と聞かれたので、当然でしょう、ああ言った手前、書く義務があるでしょう。社長さんは迷惑かも知れませんが、とにかく書いてみます。ということで、ホームページを見ると、社長さんのご挨拶のなかで、「私たちは、常にお客様の立場に立ち、お客様のビジネスシーンを支援する良きパートナーであり続けるために進化して参りますので…」と書かれています。

そうした文言を枕詞に手紙を続け、

全くそのとおりでありますが、実際にこれを実現するのは、お客と直接接触する、サービスマンたちです。私が申し上げたいのは、このような貴重な人材は、結局御社でも決して多くはないと思います。

だからこそ、この貴重な少ない人材を大いに、ほめて賞賛して、伸ばしてやって欲しいと思っております。社長が直接彼にコンタクトし、こんな話があったと伝えられれば、本人にとっては、どれほどの励みになることでしょう。そんなわけで、勝手なことを書きましたが、御社の優秀で、お客さまサービスに徹したすばらしい社員に感謝しつつ、ご報告方々、御社のご発展をお祈り申し上げます。

といった勝手な言い分を書いて社長様宛てに手紙を出しました。

こんな中小企業の年寄りから手紙をもらっても、大企業の社長が普通返事は書かないであろうと思っていましたが、大変ご立派な社長さんで、直筆の署名でご返事を頂きました。

現在お客様第一主義で全社を挙げて努力しているが、組織には色々なタイプがいるので、その社員たちに火を付けるためには、彼のようなサービスマンは貴重な財産で、早速会うように手配したと書かれておりました。

ご多忙な社長に突然失礼にも手紙を出しましたが、ただ私の経験でも、下っ端の社員時代に社長に声を掛けられたり、仕事を頼まれたりすれば、若手としては大変に励みになるのは事実で、そうした経験を一人でも持ってもらえれば、その会社は勿論、サラリーマンにとっても悪いことではありませんので、社長のご厚意は、間違いなく社員に届いていると確信しております。

それで後日、Sさんがサービスに来たときに、お宅の社長さんにお手紙を書いておきましたが、返事も頂きまして、あなたに会うようにすると書いてありましたが?と聞くと、実は、社長が渋谷のSSまで来てくれて、何も聞かされていなかったので、部長に呼ばれて、見知らぬ人がいるなー、と思ったそうです。そうしたら、その方が社長さんだったそうです。

私は社長には失礼でありますが、大会社の社長さんは超多忙で、良くても彼を本社に呼んで、お話をして下さるのかも知れないと、勝手に想像していました。しかし、うれしいことに私の予想は外れて、直接彼の事務所に出向いて下さったとのこと。

社長様にはご多忙中のところ大変失礼致しました。早速のご返事を頂いた上に、直接Sさんの事務所の方に出向かれてお会い頂いたとのこと。本人にとってこのことは一生の宝物として残るのだろうと思います。私も今時このようなサービスマンが御社におられることを誇りに感じるとともに、深く感謝しております。この場をお借りして、ご多忙な社長のお時間を取らせたことをこの場からお詫び申しあげるとともに、彼に直接薫陶を与えて下さったことを深謝致します。