電話代金1フランの経理処理

フランスで、自分の秘書を自分で面接し、採用した。そのお嬢さんのご両親は町でレストランの経営をしておられるとのこと。

採用されてすぐに、「至急両親に電話をかけたいのですが、この事務所の電話をお借りしてよろしいでしょうか?」と言う。「どうぞ好きに使ってください」と言って仕事を続けていると、「ありがとうございました。おかげで連絡が取れました。ところで、この1フランの経理処理はいかが致しましょうか?」と言う。一瞬あぜんとしたが、「たかだか1フラン(市内通話1回分)ですから、気にしないで結構ですよ」と言うと、「でも、これは私が私用で使わせていただいたものですから」と言われて、私はこのご両親に一度会ってみたいと思うようになった。

この件はそれで収めたのだが、続きがある。採用して初めての給料日に、当時は現金で封筒に入れて支給したところ、「この計算は間違っていると思います」とのこと。「ちゃんと計算して、約束したとおりにお支払いしているはずですが?」と言うと、「約束した額より多いのです」と言う。よく聞いてみると、社会保険料がフランスでは全額自己負担なのに、日本では会社が半分負担する習慣であり、海外でもそのようにしたため、彼女の計算ではその分が多いということだった。ここで改めて、このお嬢さんのような人間はどうしたらこのように育つのだろうかと、改めて考えさせられた。

さらに、パリでゼネラルストライキが明日あるという日に、「地下鉄もバスも全部止まるので、事務所に出るのに時間がかかる。私は車なので、明日朝は自宅の方に行ってあげます」と申し出たら、「大丈夫です。歩きでも何とか来られますから」と言う。実際に歩いたら優に1時間以上かかる距離のはずだが、あえてそれ以上押さなかった。次の日に出社してみると、既に彼女は事務所にいて、「歩いてきました」と言う。一見何でもない話のようだが、今時こんな話はなかなか聞けない。やはり、小さい時からのご両親のしつけが基本なのであろう。