リビアでの事件始末記

カダフィ大佐が統治していた時代、リビア政府は西側諸国に対して、パスポートにアラビア語での表記をするよう、各国政府に要請した時代があった。日本政府はじめ、どこの国もそれには従わず、従って、仮に入国しようとしても、トリポリの飛行場でUターンさせられる可能性が大きかった。

  • リビア入国事情

まずは、ベイルートのリビア大使館でVisaの申請をしてみたが、受け付けてくれなかった。仕事の関係でトリポリに行く必要性もあったが、Visaなしに行くわけにも行かず、考えた末に、イタリアなら元リビアの宗主国なので、うまくVisa が取れるかもしれないという単なる思いつきで、支店長に、いずれにしてもトライしてみたいので、ということで、ミラノに支店があったので、そちら経由でまずはVisa取りのために出張した。

ミラノ支店のお嬢さんに手伝ってもらって、リビア大使館に赴き、公使に「貴国のナショナルプロジェクトのために商談をしに行きたいので、何とかVisaを発行願いたい」と、お嬢さんのイタリア語で頼み込んだ。あっさり、「次の日に発行するから、明日取りに来い」と言う。あまりにもあっさり取得出来たので、すぐにリビアに飛ぶのももったいない?!ので、ベイルート店には、Visaは何とかなりそうだがもう少しかかるので、取れ次第リビアに入る旨連絡して、ミラノ見物をしてから、その後ローマ発のLibyan Airlinesに乗ってトリポリに到着した。

Visaがあるとはいえ、Uターンさせられてはかなわないので、少しばかり考えて、一番初めに飛行機を降りてイミグレーションの方に歩いて行った。乗客は約70名位で、約半分、すなわち40名前後が外国人という割合だった。

空港ターミナルに入ると、いきなりグリーンベレーの兵隊が監視役で立っていたので、私はいきなり敬礼して、アラビア語で「こんにちは」と言った途端に、「This way, please!」と言われ、イミグレーションの方を指さされたので、これで何とか第一関門は通れたと感じた。

通常通り、パスポートをチェックされ、スタンプを押してもらって、荷物を取って入国した。トリポリの店長が出迎えに来てくれていたが、他の商社のM社とC社の2人も迎えに来ていた。「何でそんなにみんなで迎えに来てくれたの?」と聞くと、我々はプロジェクトが今のところ無いので、金曜日に丁度あなたが来るというので、麻雀の面子が揃うので迎えに来たという。しかも、M社の中東総支配人が同じ飛行機で来ているはずなので、ホテルまで送ったら社宅で麻雀をやるから、あなたはホテルには行かなくていいと勝手にスケジュール変更を言い渡された。

そこからが問題です。私の後から、現地リビア人の他に外国人が続々と入ってきたが、一向に外に出てこない。様子がおかしいので、現地駐在員がLibyan Airlinesの事務所に聞きに行ったら、外国人は今乗ってきた飛行機でほとんどがUターンさせられる、とのこと。

「あなたはパスポートを見せて何か言われなかったか?」と聞かれたので、「いや、全然問題なく通してくれたけど」と答え、入るときにグリーンベレーの兵隊さんに敬礼をして挨拶しただけで通してくれたことを説明した。

結局、M商社の中東総支配人も、そのままローマ行きの飛行機に乗せられて返されてしまった。彼が後で、「お願いだから、あんたが入国出来たというのは本社にも内緒にしておいてくれ。そうでないと俺が怒られそうなので、よろしくお願いします」と言う。役満を2回くらい振り込んでくれたら内緒にしておいてやるよ!ということで、その日は彼の社宅マンションで徹夜麻雀をして、朝方奥様にご用意してもらった朝食を頂いて、ホテルにチェックインした。

翌日、日本大使館(当時は確か臨時代理大使が執務されていました)にパスポートのことや、Uターン事件のことなどを報告かたがた伺った。大使は、「さすが、村野さん。東南アジアで鍛えたベトコンのような人ですね」と言ってから、「いったい空から舞い降りてきたような話じゃないですか」とつぶやいて、なぜ私だけが通れたのかを詳しく聞かれた。

通れた理由は全く何もなく、他の人と多分違っていたのはグリーンベレーの兵隊さんとの一瞬のやりとりと、一番初めに降りていったという程度のことです。言い換えれば、「気合いです」としか言いようがない事件でした。

そんなことで、久しぶりの日本人客?!だからという事で、マイクロウェーブの工事部隊もいるので、来週金曜日には公邸でごちそうします、ということで大使館を後にした。

Visa というのは不思議なシステムで、一応、この人はその国に入れても良いという、いわばお墨付きを頂いて入国するわけですが、今回のように、ベイルートでは発行をしてくれなかったのにミラノではOKを出してくれたり、Visaを申請する場所によって対応が異なる国もあるようです。また、Visaには色々な種類があり、短期のVisa、長期のVisa、その他色々あります。

ベイルートに赴任する際、通常は短期(1週間有効)のVisaしか東京では出してくれないとの旅行会社の説明だったが、行ってすぐに色々手続きをするのも面倒なので、私が直接公使に話してみます、ということで、自分で東京のレバノン大使館に行って、「こういう事情で貴国に赴任しますが、行ってすぐにあちこち出張も必要なので、長期のVisaを出して欲しい」と、フランス語で話し合った。結果はOKで、帰りに日本人の男性秘書が、「よく6ヶ月のVisa を出してくれましたね。今までには無かったことです」と説明された。

日本のパスポートは、現在では可なりの国がVisaは不必要なので大変助かりますが、いずれにしても、Visaというのはその時々の状況によって入国できたり、出来なかったり、よくその国の状況も見極めて対応する必要がありそうです。

次回は上記大使公邸での宴会の終了後の逮捕事件についてお話しします。