コミュニケーション能力と基礎学力

企業の新卒採用で、一流企業の人事部長が「学生に対して要求することは何か?」と聞かれ、「コミュニケーション能力と基礎学力」と答えた。本音を聞いてみたら、コミュニケーション能力とは「名前を呼ばれたら返事くらいしろ」ということで、基礎学力とは「四算くらいできるようにしといてくれ」ということだそうだ。

確かに、昨今はこちらから聞いたことに対して返事のないケースが意外と多い。昔とは通信手段に格段の差があるので、生で直接話したがらないのは少し理解できる。が、自分の聞きたいことはメールしてくるのに、こちらの話には反応が鈍いというのはどうしたものか。単に私が嫌われているだけなら結構だが、いろいろ聞いてみると、普段の生活がすでにそのような状況になりつつあるようだ。

先日、「男はつらいよ」シリーズの山田洋次監督が文化勲章をもらった際、インタビューに答え、「若いころは自分が訴えたい哲学的な話を映画にして、ホームドラマなんか作る気は全くなかった。しかし、『寅さん』を作っていると、家族の中でもいろいろと問題を抱えているが、それなりにコミュニケーションを取っている。裏手の印刷屋のおやじに『てめえんとこなんぞは潰れてしまえばいいんだ!』なんて悪態をついても、結局は仲良く毎日の生活が流れていく。監督としては、これがトータルとしての幸せなんだということを知って欲しい」と言っていた。これに対し、インタビューアーが「これからはどうなるんでしょうか?」と聞くと、「今の人たちは他人との付き合いでトラブルを起こしたくないという思いがあるのか、距離を置いて付き合うでしょう。だから、ざっくばらんな付き合いなんて無理でしょう」と答えていた。

近所付き合いや友達付き合いがこんな調子だと、仕事上の付き合いや外交での付き合いなんてますます難しくなる。そんな土壌で会社がいくら「国際人」を養成しても、役に立つ本当の「国際人」など出来上がるのか不安である。