上司と部下

WBCの準決勝で、すっかり有名になった「行けたら行け」という指示ですが、TVや新聞で後出しじゃんけん的解説や評論で賑わっています。所詮結果論で、何も指示をしないで、仮にダブルプレーでも食らったら、何も策を講じなかったのはおかしいとか言われるわけです。うまくいったら上司の手柄、まずくいったら部下が悪い! これはサラリーマン世界では、常識以前の常識と言っても過言でないくらい、普通に上からは「曖昧な指示」が飛んできます。

  • 上司は上手にだましなさい

上司だって、よほどあほな人間ならともかく、自分の部下の能力をある程度判って仕事の指示を出しているはずですから、全く出来ない仕事を任せるはずもありません。よく入社2~3年目のサラリーマンが、うちの上司は嫌なやつで、帰ろうとすると仕事を押しつけられるとか、休暇を申請すると嫌な顔をされるなどの愚痴をこぼしています。そんな時、そもそもあなた方にとって「良い上司」というのは、どんなイメージなのか聞いてみると、単純に、「自分にとって都合の良い発言をしてくれる上司」というのが答えです。

そもそも会社組織の中で、課長とか室長とかという中間管理職は、いかに部下をこき使って、そのグループの成績を上げるかが一番の仕事であり、「嫌な上司」をやっているということは基本的には、会社にとっては「良い中間管理職」であるはずです。

そんなわけで、就職を間近に控えた大学生の授業で、「上司には噛みつけ! 仲間は大切にしろ! 部下は徹底的に教育しろ!」と教えています。普通は「上司にはごまをすれ! 仲間は皆競争相手! 部下はこき使え!」が普通のサラリーマンが波風を立てずに、生きるためにやっていることです。

私が言いたいのは、事なかれサラリーマンをやるならそれはそれで個人のポリシーですから結構ですが、ほんとに仕事を楽しんで、良い仕事をするためには、普通の上司が考えているようなことは凌駕するくらい勉強をして、何を言われても「あいつにはかなわない」という領域までに達すれば、部下として上司に「噛みついた」ことになるはずです。言い換えれば、上司なんて上手に「だましなさい」ということです。

私の経験から実例を一つだけ申しあげれば、決して人をほめたことない怖い次長さんがおられました。あるとき課長が、「君、S次長に何かしたのか?」と訳の分からない質問をされたので、「いいえ特に」と言ってから、「何かあったのですか?」と聞くと、あの、人をほめたことない次長が、おまえのことを、「あいつは良いやつだ、仕事も出来る!」と言ったのだそうです。課長はなぜ私がこの次長から好意的な言葉をもらったのかさっぱり判らなかったようです。私はあえて課長には理由は説明しませんでした。私の解釈が正しいと信じていますが、事は単純な話です。

次長さんは少し耳が遠く且つ老眼です。私は話し声が大きく、且つその次長さんへのメモなどは大きな字でしっかりと書いて回していました。あるときちょっとした記事を、回し忘れて、中身の話になったときに、「俺それ見てないような気がする」と言ったので、私は次長がいつも赤鉛筆で一文字サインをしているのを上手にまねして、「次長、読んでいますよ、ここにサインありますよ!?」、「あ!ほんとだ、俺サインしてるわ?」・・・この程度のだましはお愛嬌のうちです。そもそも、一つ飛ばした上司などと、平社員が直接デイリーに仕事をやりとりする関係ではないのですから、上になればなるほど、上手にだまして味方につけて下さい。

また仕事を進める上で、同僚や仲間は不可欠です、誰かれかまわずというわけにはいきませんが、重要な仕事や大きな仕事は、一人だけでは中々難しいでしょう。仲間との協力は大切につないで行く心がまえも持っていた方が良いと思います。

最後に部下ですが、海外でよく経験することは、中々現地の人は、自分が教えられたことを下に教えないと言うケースが結構多いです。一般的に、部下の成長は自分の地位を危うくするという考えが身についているからでしょう。それは自分が一定の場所にとどまっていることを意味するわけで、部下が自分の地位に来られたときには自分はさらに上にいるという上昇志向を持てという事に他なりません。

私より少し後輩ですが、すごい人がいて、4月1日に新入生として各課に配属され、その瞬間に、「こんなマネージメントなら、今すぐにでも俺はやれると思った」そうです。彼は豪農の息子で、親が小作人などの面倒を見ていたのを、子供の頃から見ていたので、本当にそう思えたのでしょう。私の親もサラリーマンでしたから、とてもそのような考えは思いもつきませんでしたし、所詮雇われの身で、毎日の仕事をこなすのが精一杯でした。後になって、彼から、この会社ならあんたと二人で乗っ取れると思っていたと言われましたが、親友からのほめ言葉だけだと思って居ます。

  • 女子能力開発委員会

どんな会社でも、この上司と部下の関係は、昔から存在している基本的な問題です。大分前になりますが、「女子能力開発委員会」という今聞いたら女性社員が怒りそうな委員会が存在していて、私に社内講師の依頼が人事部からあったので、喜んで引き受けましたが、問題は話の中身です。人事部としはてまじめな仕事の話をしてほしいので(私は人事などからは信頼されていない、悪社員でしたから)、原稿を書けと言われて、「偽の原稿」を書いて出しておきました。当日100名以上の女性社員が大会議室に集まっていて、人事部の方も私がいい加減な話をするのを警戒して??出席されていました。こちらも証人として?私のアシスタントの女性に同道願って、講義を開始しました。

いきなり私から、「仕事の話は後でしますが、その前に、まず皆さん中で、上司に色々問題を抱えている人は手を挙げて下さい」と聞くと、半分以上の人が一斉に手を挙げたのには私も意外でした。普通はおそるおそる、一人、二人と手を挙げると思っていたら、本当に大勢が手を挙げたので、さすがエリート女性の集まりだと感じました。そこで勢いづいて、まずは自分の上司の悪口から初めて、休暇の取得、仕事の管理、残業、女性としての差別等等、思いつくままに、私なりの対処方法なども交え、且つ海外のローカルの女性社員の話まで交えて、とにかく折角一流会社で働いているのに、楽しく働けないのでは、能力開発以前の問題ですということで締めくくって、ほとんど仕事の話はなしで終了しました。

後から人事のおばさん(お嬢さんではありません!)で、私も色々お世話になった方が、実は人事部としては村野さんのやり方はルール違反なのですが、とりあえず、追跡調査をして、あなたの講演がどうだったかを出席者全員にアンケート調査をかけたと言われました。その結果は、今までの講演(経理や財務、運輸など)の中で、あんたの講演がダントツ一番で、あのような質の話を人事部としてもっと積極的にやってほしいという依頼が圧倒的に多かったそうです。しかも、あの話を聞いて、楽しく仕事が出来そうな気がしてきたというコメントも多数あったと聞いています。

最近は女性の社会進出も盛んですが、それだけに、以前にも増して、複雑な問題も多いのではないかと思います。女性の社会進出先進国アメリカでも、最近、問題になっているのは、女性のトップ役員になる数が、男性に比べて非常に少ないということのようです。

日本でも、結婚している夫婦で女性も働くケースが多いのは良いのですが、問題は女性の出産、育児、家事といった、家族としての生活をどうつないで行くのかといった、単に「働く」という観点ではなく、家族として「生活をする」という事が起点にならないと、問題は簡単には片づかないでしょう。

その意味で、上司と部下の関係から、社員とその家族が、どう生きて行くのかという、根本問題を日本的文化とか歴史とかを引っ張り出して、考え直してみる必要がありそうです。