社長と副社長(2)

前回、社長や副社長という二つの役職は大変な違いがあるらしい、ということで、ある副社長のケースをご紹介しました。今回はさらに二人の副社長のケースをご紹介します。でも本当に副社長は偉くないんでしょうか?

  • B副社長のケース

以前からよくお付き合いのあった方が、副社長になって、久しぶりに彼の事務所でお会いした時のことです。入る早々、部長が書類を持って入ってきて、B副社長と話をして、すぐ立ち去った。

B副社長曰く、「あいつを部長にするのは少し早かったが、しょうがないよな」なんてつぶやいてから、「どう思う君?」と言われても困りますね。その部長も充分存じ上げてはいるものの、部長としてどうかと聞かれても、私の役目ではないし、まさか副社長に同調して、「ほんとにあまり適任ではないでしょうね?」なんていうことは言えないし。

そんな雑談をしてから、B副社長が突然、「この頃は寝付きが悪くて、参っているんだよ」と言うので、「どこかお加減でも悪いんですか?」と聞くと、「そうじゃないんだよ。会社だよ、会社!」と言い、一息ついてから、「毎週役員会でいつもいじめられっぱなしだよ。本当にひどいんだよ。君も知っての通り、うちは業績が芳しくないもんだから、じくじく虐められているんですよ」と言われる。

「業績が悪いといっても、そこそこでしょう? そんなB副社長が寝られないほど考える必要ないんじゃないですか?」と気安く、他人事のように言い、「だって社長の次の副社長でしょう? 他に専務とか常務とか、副社長より格下の役員だっているんですから、そういう方は味方にならないんですか?」とまるで学校のホームルームのような感覚で聞くと、「それが君、色々派閥を組んでやられるもんで、参るよなー」ということで、思わず「副社長って、私たちが思うほど偉くないんですね・・」と相当失礼な発言を言ってのけると、そこで初めてB副社長は大笑いしながら、「そうなんだよ君、よくぞ言ってくれた。偉くないんだよ、全然偉くないんだよ・・」だそうです。

  • C副社長のケース

ある国の首相との関連で、私がC副社長にお会いして、レクチャーをした時のこと。彼はレクチャーが終わってから、「今日は有り難う。私は初めて、僕が聞きたかったことをちゃんと話してくれた初めての人が君だ」と言ってから、ところで、「これから、この国の案件で社長から、色々意見が出てくるかも知れないが、君としては、どう対応して行くつもりなのか」と聞かれた。

私は「うちの社長やC副社長がどう考えるかではなくて、相手の首相がどうしてほしいと考えるかであって、社長の意見はあまり関係ないと思って居ますが?」と単純に答えると、C副社長は、「その通りだ。是非その筋を通して、うまくやってほしい」という意味のことを言った上で、「君ね、社長と副社長では大違いでね、僕が副社長の立場で社長に対して何かを言っても、ほとんど何も聞き入れてもらえないんだよ、同じ『長』が付いていても、社長と副社長ではとんでもなく差があるんだよ!」と言われた。

その後ある仕事のご縁で、日本の盲人協会の会長さんと、厚生省(当時の)局長さんを招いて、C副社長にホストをお願いして接待をしたことがあった。「君は本当におもしろい仕事の仕方をするね。僕は長年色々な方を接待してきたが、盲人を接待したのは生まれて初めてだよ。でもこれも大事な仕事に繋がる話なので、こういうアレンジが出来る人間をもっと育成しなければ駄目だね」と仰ったので、「C副社長! 弊社ではまず無理でしょう。だって、ほとんどの社員は半期毎の利益を出す事が仕事だと思って生きているわけですから、よほど、特命でこれだけやれと言ってやらせないと、経済原則と評価方法からしてまず出来ないでしょう」と申し上げておきました。

最近、本社の管理部門の部長さんとお話をする機会があり、その時も全く同じ話になり、「本部としては営業部に、先を見て長期的に仕事をやらなければバッテンつけるぞと言って脅かしているのですが・・」と言うので、上記と同じ理由で、期毎に利益を上げることを原則としながら、長期的観点で仕事をするのは理想ではありますが、大きな会社なら、わずかな人数で良いので、元気の良い若手を集めて(せめて数人で良いと思います)特殊部隊を作って、長期的観点での国作りへのアタックをどうするかの仕事をさせれば、きっと良い仕事に繋がるはずです、と申し上げました。

社長さんが総理や大統領と会うのはそれはそれで意味がありますが、実務部隊が、深く静かに潜航して、実をあげるのは、やはり現場の仕事師がいなければ難しいでしょう。昔も今もどうもあまり変わり映えがしないというか、かえって今の方が、細分化してしまって、大きなうねりのあるような仕事の仕方になっていないような気もしています。