会社の存亡を賭けたシナリオ

ある重要なプロジェクトを、クローズするためのシナリオを書かされたことがある。社内でも色々利害関係もあり、そんなことを配慮すると、ちゃんとしたシナリオにはならないし、仮に実施してもうまく行くはずがない。そこで一番過激なシナリオを書き、極秘裏に部長にドラフトを提出し、ご意見を伺った。部長曰く、「君、これは少し過激すぎないか? もう少し柔らかい書き方が出来ないか?」と言うので、本質的なところは替えずに、単に表現だけを書き換えて最終原稿とした。

  • 社長・副社長・部長の複雑な関係

秘密会議室に、私と部長が並んで座り、向かいに社長、副社長、それに秘書室長が座った。私のシナリオは出席者全員に配布され、まず冒頭副社長が口を開いた。(彼は私のことを知っていて、いつも過激なことを言っているやつと思って居る)

「この原稿は君が書いたのかね?」「はい、そうです」「君にしてずいぶん遠回しに書いているじゃないか。要は、こんな生ぬるいやり方では駄目だという意味だよね?」「はい、そうです」「そんならそうと、はっきり書きたまえ!」「イヤー、最初は過激に書いたのですが、うちの部長が柔らかく書けと言うもんですから?!」と言って部長の命令であることをばらしてしまった。

副社長はそんなことは百も承知で、私に上記のような質問をしたのだということを、後で直接本人から聞かされた。「この非常時に、本音の話が出来ないようでは、こんな難しい仕事は処理できないからな!」と言って、「君がなんて言うか楽しみだったんだ?!」と言われた。副社長も人が悪いが、確かに、幾ら社長、副社長との検討会であっても、形式だけ整えれば良いというものではないし、会社のトップとして、ここぞという決断を下さなければならない責任者としては当然のことであろうと思った。

結果としては、直ちにそのシナリオ通りに動くための手順を話し合い、処理がスタートし、1年以上掛けて、結局終戦処理が完了した。これだけの話ですが、あのとき私が単純に、「私が優しく書きました。すいません」とだけ言っても、さして変わりはなかったように思えますが、副社長の思惑は別のところにあったようです。

実は社長はあまり過激なやり方を望んでいなかったので、副社長は丁度良いタイミングで、私のシナリオが、優しく書いてあったので、これを利用して、もっと過激なやり方で処理をしなければ駄目ということで社長にもOKさせたという裏があったようです。その意味では、部長の「優しく書け」という命令も、怪我の功名であったのかも知れません。

今はここに登場するお偉いさん方はすでに皆鬼籍に入っておられます。きっとあの世で、「あの野郎は、ほんとに直情的で、みんな上にばらして平気な顔をしていやがる」なんて茶飲み会議をしておられることとお察し申し上げます。