仕事の仕方あれこれ(利益とは何か)

「利益とは何か」というテーマの根幹に関わる話は既に別のコラムで書きましたが、改めて、新人にお話をするに当たって、このテーマを取り上げました。この問題は簡単なようで結構奥が深く、自分がやっている仕事に関する「利益」や、その内容、また、現在はやりの「環境問題」などを考える上でもキーになる内容ですので、自分なりに、じっくり考えて、自分の仕事に対する基本姿勢を深掘りしてみて下さい。

サラリーマンが仕事をして行く上で、給料をもらっている限り、誰かが利益を出さなければ潰れてしまいます。メーカーであれば作った物を売る、商社であれば誰かが作った物を売るとか、金があれば利益の出そうな仕事に投資をするとか、サービス業であればお客に何らかのサービスを提供して利益を得るとか、色々形は違いますが、売る人がいて、買う人がいる、あるいはサービスをする人がいれば、これを受ける人がいる。それをお金というものを仲介して、高いとか安いとか、良かったとか悪かったとかいう評価で、その物やサービスの価値が決まってきます。

そう考えれば、高く売れたから儲かった、安く叩かれたから損をしたという単純な計算式になるのですが、果たしてそれが「利益」というものだと考えて良いのでしょうか?

帳簿上はそうですが、その様な表面的な話ではなく、一生の人生のなかで、色々人や仕事や事件などに人は遭遇して成長します。その課程で、上記のような「利益」というものが絡んできます。しかし、世の中黙っていても売れるとか、思わぬ利益を得たとかいう話はそうざらにあるわけでなく、物の値段やサービスの価値というものは、世間様が総じて決めてくれるものです。

しからば、競争相手とどう対処するのかとか、お客にどうくい込むのかとかいう話になるわけですが、その前に、物作りやサービス業の権化のような旅館業について、どう作り、どう売るのか? あるいはどうやって、お客を自分の旅館に呼べるのか?などを例題として考えて見ます。

1. 物作りのケース

物作りのメーカーは、伝統的な製品作りから、日替わりのように新商品を出さねばならないものや、何年もかけて作って納入するもの等、千差万別です。しかし原点的には、客がいての商売です。ところが、私の経験を話しますと、米国のC社という化粧品会社があって、大分以前(何十年も前)にテニスをやって、火ぶくれが出来る可能性があるので、日焼け止めのリップクリームでお勧めの物があると医者が言うので、C社製のものを試して見ました。結構良い値段で、たかがリップ・スティックですが、何千円の単位です。それで、海外出張の度に買いだめしては使っていました。

あるとき、もうその製品はありませんと言われ、代わりは?と聞いたら、少し大きめの物で、値段もそれなりに高くなっていましたが、それも使い続けていました。ところが、あるとき突然、もうその製品は製造していませんと言われ、正規な代理店に聞いても同様の返事で、言わば日焼け止めのリップ・スティックの原点のような製品を作らなくなったというので、理由を聞いたが、多分売れないからでしょうと言う。

その時以来、私はC社の足を引っ張るべく、会う人ごとに、あの会社の製品は買わない方が良いと、不買運動家の先兵となっています。多分C社としては、世界戦略の中で、こんな製品は作らなくても、商売効率からしたら、ラインに乗せない方が利益に貢献するのでしょう。まさに利益優先型の典型です。

ほかにも色々のケースがあります。ひげそりのムースとか、カミソリの替え刃とか、なぜか私が愛し始めると製造中止になってしまいます。よほど私は、売れない商品を探すのが上手なのかも知れません。しかし、本質的な話をすれば、その会社の製品を愛してくれている「お客」をないがしろにするような物作り屋はいつかは潰れると信じています。

立派な物作り屋もいます。英国の有名ブランドのウェッジウッド社です。20年以上も前に、ロンドンで買い求めた紅茶セットの皿が、使わずに(使う機会がなかった?!)箱詰めしたまま、最近になって開けたところ、皿の高台のところが5~6枚、丸く割れてしまっていました。

東京の事務所に掛け合って、ロンドンのクレーム処理係のアドレスをもらって交渉を続けましたが、埒があかないので、東京の事務所に再度掛け合ったところ、東京事務所で処理しますということで、割れていない物も含めて同じロットの物をセットで替えてくれました。その方は日本人の女性のマネージャーで、こうした処理を怠るとブランド名を維持出来なくなるということを彼女は力説していました。

さすが老舗です。今でも私の事務所の近くなので、菓子折を持って東京事務所を訪れることがあります。

2. サービス業のケース

先日、軽井沢の「星野温泉」で有名な星野氏がTVで、サービス業のサービスについて面白い話をしていましたのでご紹介します。

彼によると、欧州で発達したサービス業の原点は、王様と召使いの関係で、欧州のサービスは、あなた(客)が王様で、あなたの言うことは何でも致します、というのが原点だそうです。

しかるに、日本の「おもてなし」というのは、お客様の「ほんの少し前」を先読みして、さりげなくおもてなしをすることが、日本のサービスの本質だそうです。これはある意味で大変実行するのは難しく、やり過ぎれば、客からはうざったいと思われ、やらなければ気が利かないとなります。それを考え抜いた上でさりげなくやるのが、日本のサービス(おもてなし)だそうです。

そこまで考えて、現在は欧州の客に、まずは、日本のおもてなしの神髄を知ってもらい、そこから、日本のサービスが最高であるという情報発信を、アジアのお客にも知ってもらうという計画を立てているという話でした。

いずれにしても、客を大切に扱う、大切に思うということは当然サービス業の原点で、その点、日本では色々な意味で、お客のもてなしについては、他国よりも優れた文化を持っているはずです。

京都にある日本政府の迎賓館の建物や庭自身が大変立派な「おもてなし」舞台でもあり、更に、料理や花や、美術品(書画骨董等)まで、徹底したおもてなしが出来る体制になっています。

要約すれば、そうやって、相手(お客)に誠心誠意尽くした上で得られた信用や喜びは、何ものにも代え難い宝物です。それが真の「利益」ではないでしょうか。

早い話が、一般的に、物作りにしても、物売りにしても、要は「自分の作った物が良いから買って下さい」という話が一般的で、客が何をほしがっているのかは二の次で、自分のものを売るのに一生懸命です。これでは、通り一遍のセールスマン、セールスウーマンでしかありません。

人生の中で、常に他人のために一生懸命尽くして(奉仕の精神)生きてこそ、それがいつかは自分に跳ね返ってくる。それが一生懸命仕事をした結果ついてくる、自分に対する真の「利益」と考えれば、自ずと金も人もついてくるというものです。

自己主張をするのは結構ですが、まずは色々死ぬほど努力をしてみてから、自分にとっての真の利益とはなにかを考えて見て下さい。

先にこの「利益」という考え方は「環境問題」とも深く関わり合いがあるといいましたが、単純に考えて、「環境問題」の本質は「経済活動」の裏返しというべきものです。その双方を天秤にかけて、いわゆる社会にとって、あるいは自分にとって、「利益」となる「環境問題」の解決方法は何かと問えば、自ずと「利益」とは何かを規定出来ないと、問題解決は出来ません。謎解きのような話になりましたが、「利益」とはそのくらい奥の深いもののはずです。