これから社会に出る方に

この経済的に厳しい時代に、あちこちエントリーシートを何十枚も書いて、やっと就職の内定をもらって、来る4月の入社式を控えている方も多いと思います。そうした方や、あるいは既に入社して、新人として活躍されている若い方に、余計なお節介話をしてみようと思います。既にこれに近い話は以前にも幾つかしてきましたが、この種の話は幾ら繰り返しても、その時々の時代背景もあり、毒にはならないし、少しはお役に立つかと思い書いてみます。

色々な方がおられると思いますが、現代と私たちの時代(50年以上前)とは状況が全く異なるので、何ともいえませんが、自分が希望した理想的な会社なり職種なりに就職が決まっているケースはまずは例外的と言って良いかと思います。そうした例外的な方はさておいて、ごく普通に、不本意ながら、あるいは、まあしょうがないから、といった妥協で就職を決めている方にお話しします。

  • 自分の立ち位置

学校の就活課やリクルートなどの情報誌で百もご存じかと思いますが、日本の統計(平成21年度経済センサス)を見てみますと、日本の中小企業と言われる会社は、全企業数421.3万社のうち、企業数で99.7%、雇用者数で66%ということです。逆に言えば、一流企業と言われる大企業は、0.3%(約1.2万社)しかないということです。しかもその中小企業での従業者数が66%(2,836万人)、大企業で34%(1,463万人)を雇用していることになります。

こうした数字を見て、自分が今立たされている位置がどこにいるのかをクールにまずは認識することが重要かと思います。単純に大企業だから良い、中小企業だから残念などいう考えは、そもそもスタートとしては最低の考え方だと思います。

よく学校で勉強したことを仕事で活かしたいとか言われる方がおられますが、気持ちとしては結構ですが、まず大学の4年、修士課程をやっても6年、この程度と言っては失礼かも知れませんが、この年数で学んだことが、一体どのくらい実社会で役に立つのかということを認識した方が良いと思います。社会での仕事というのは、すべて責任が伴う仕事で、学校で実験やら研究しているのとは訳が違います。

又、仮に自分が希望する会社や職種を選んだとしても、会社は、あなたにどんな仕事を与えるかは分かりません。極端な話が、総務部に配属され、文房具の係をやらされるかも知れません。従って、まずは、石の上にも3年、じっくり自分の会社でやっていることを、すべて習得するくらいの気持ちで、短時間に知識を吸収し、その業界の事情や、周りの情報も習得するくらいの意欲がほしいですね。

そうすることによって、勉強も一緒ですが、だんだん深掘りをしていくうちに、周りのことが急に見えてくることがあります。それが業界通になったり、自分の周りの仕事に精通して、仕事がはかどるとか、質の良い仕事が出来るようになるとかといった結果に繋がってきます。

  • 新人研修

会社に入ってから、普通は新人研修というものをやるのが普通ですが、入社前に、内定を出してから、入社までにも最近は宿題として、色々な宿題を出しているケースも多いようです。内容としては、簿記(金勘定)、語学(英語)等の基礎的なことをしっかり勉強しておけということでしょう。このような初めの一歩が結構大事で、仮にこのような事前研修であれ、入ってからの新入生研修であれ、企業の大小にかかわらず、何らかの形で行われているはずですので、この時期やこの修行時代を、気を抜かずに自分の栄養にしてほしいです。

  • 仕事の評価

実際に仕事が始まり、手紙を書けとか、客先との対面、交渉等が始まり、叱られながら(最近はあまり叱らないようですが)色々覚え、慣れていくわけです。

ここで、話は飛びますが、新入生として、あなたは怒られたいですか? 叱られたいですか?といった変な質問をされたらどう答えますか?

これは結構微妙な言葉使いですが、私なりの解釈は、怒るというのは、感情的に、相手に対して「この馬鹿!!」といったニュアンスが入ります。しかし、叱るというのは、相手に対して、きつく教え込むといったニュアンスが強く、やってはいけないことと、やっても良いことの区別を子供に教えるときと同様の意味合いがあると思っています。

勿論両方の意味合いが同時に出ることもありますが、問題はこれを受ける側の取り方です。最近は叱られても、怒られたと感じて、逃げてしまうケースも多いようで、そこが結構、企業としても新人の扱いに苦労しているようです。旧人!?としての私からすれば、叱るときにはしっかり叱らなければ、人は育たないと思っています。

もっとも、新人の方が上手で、私のほんの少しの後輩ですが、入社当日に、課長のマネジメントを見て、この程度のことなら自分なら今すぐにでも出来ると思ったというすごい新人もいますので、上司としても努々油断をせずに新人教育をして下さい。

気になるのは、仕事の評価でしょう。最近の方で、学校では三択問題で育った人が、答えは100点か0点しか無いのかと思ったという、笑えない実話があります。社会に出たら「答え」は「無い」と思った方が良いでしょう。そもそも、社会で「正解」などというものは存在し得ないはずです。だから10点でも20点でも良いから、まずは、考えて、取り掛かってみるのが重要でしょう。

  • 納期

仕事には必ず納期というものがあります。「○○さん、今日中にこれ仕上げといて」などという日常の会話が取り交わされます。この程度ならふつうこなせるでしょうが、もし難しそうな仕事が上司からおりてきたら、どうされますか?

うっかり、難しく時間もかかりそうなので、放っておいたら大変です。上司からは「大分時間も経ったので、さぞかし立派な書類が出来ているんだろうな?」などと先を越されてしまいます。

こういう時には、中間報告をします。難しそうな話なので、こんな段取りでやろうと考えていますとか、要は時間稼ぎをします。その上で、何とか仕上げるのが常套手段で、とにかく何もしないで、ただひたすら時間が過ぎて行くのが最悪です。

また、上からおりてきた仕事を、難しいのでとか言って断るのも最悪です。大体上司は、出来ない仕事や、やらせられない仕事をおろしてくるはずがないわけで、決して断ってはいけません。

私が経験した話で、ある人が、「毎朝仕事の順序を考えて、会社に出てくるのですが、順序通りに仕事が進められたことがない」と悩んでいたので、ではあなたが席に座って何か仕事をしていて、部長と課長と同時に呼ばれたら、どっちを先に片付けるのか聞いてみたら、「うーん」とうなって、答えが出ませんでした。

常識的には部長からでしょう。サラリーマンなら、仕事の順序もその程度の問題で、時には一度に二つか三つの仕事を同時並行でやる事もあるのが会社の仕事なのではと言うと、私には一つずつしか出来ませんと言うから、そんな芸術家をやっていては、何時までも仕事は終わらないし、やっつけ仕事だって、時には必要なのではと言っておきました。多分彼の場合、常に納期遅れが多いのではないかと思っています。

それに付け加えれば、そもそも会社の仕事なんて、幾らやっても終わりというのはあり得ないわけで、とりあえず人間は継続して生きているので、今日は今日、明日は明日で、重要度や緊急度を考えて、仕事をこなすわけで、「これで仕事が終わった」と言うことは、生きている限り、あり得ないと考えた方が良いのかと思います。いや死んでも仕事は残ってしまうといったほうが正確かも知れません。

いずれにしても、こうした日常の業務の中で、普通の仕事であれば半年も経てば、社内でどのような仕事があって、誰がどうやって、利益を出しているのかという、企業としての原則を、出来るだけ短時間に見通すだけの意志を持って勤務していれば、自ずと道は開けてくるはずで、なんとなく、一年が過ぎてしまいましたという過ごし方は、折角の一年生の生き方としては、お勧めできないですね。

こうして新入生は、学校という群れから、会社という特定の群れグループに入り込んで、人生をスタートさせるわけです。次回から、しばらく具体的なテーマについて、サラリーマン手帳風なことを書いてみます。