サラリーマン教育の原点

事務系であれ、技術系であれ、それぞれの企業で新人に求められる要素としては、コミュニケーション能力(呼ばれたら返事くらいしろ)があり、創造的で個性があり、基礎的教養(四則の計算ぐらいちゃんと出来てほしい)がある人というのが一部上場の大企業の人事部の要求する人間像だと以前書いたことがあります。

しかし、実際にはサラリーマンの教育というのは、言ってみれば、書類作りにしろ、技術屋としての設計や製造など、その会社の基礎的な部分は、何年かにわたってしっかりたたき込まれてこそ初めて独り立ちして仕事が出来るようになるのが通常です。

言い換えれば、企業側からの新人教育なんていうのは、もっとも個性を無視して、形にはめて、それぞれの業界で使える人間として育てるわけで、その段階では個性を発揮する隙間もないと思うのが一般的です。

ここで私が経験した2つの例をお話しします。

1つ目は、最近の話ですが、政府の仕事で、出張スケジュールなどを含む打ち合わせ概要を作成した際、ある若者が予定スケジュールを書いた折に、そのタイトルが「スケジュール感」と書いてあったので、これは「スケジュール(案)」ではないの?と聞くと、いや、私の感覚からすると「スケジュール感」ですと言い張るので、なぜ「感」なのか追求すると、最近の若者はこんな言葉は結構使っているし、ネットでもよく使われているし、自分としても「感」がぴったりですと言う。

しかも、言葉は進歩するので、「案」でなくても「感」が普通になるかもしれないですよ、と仰せになったので、そんな話は聞いたことがない。第一、普通の企業では勿論、役所ならなおさらのこと、こんな言葉を使ったら、間違いなく訂正を要求されるはずと言っておきました。

次の日に、彼曰く、「よく調べたら、この言葉は、民主党の野田元総理がよく使っていた言葉だそうです」とのことでした。だいたい後からどうにでも説明できるような曖昧な言葉を使う政治家の言葉なんかはビジネスの世界では使わないし、「案」と言う言葉一つとっても、基本的には言葉の意味を関係者一同がある範囲で理解をしているのがビジネス用語だという事を説明しておきました。典型的な型枠はめ込み型教育の例です。

2つ目は、私の友人で、彼が新入生で初めて会社に出社した日の話です。彼が出社してすぐに、配属される課に紹介されたときに、課長さんや部下の仕事ぶりを見て、彼はこの程度のマネージメントなら、俺なら今すぐにでも出来ると感じた、と言っておりました。彼は超一流会社の役員になってすでに退職している方です。

超個性型新人ケースの例です。このほか、新入サラリーマンの話は色々おもしろい話や、なるほどと思うような話は国内外でいっぱいありますが、今日の主題は、基礎教育という型枠にはめながら、実践で役に立つ人間を育てるという原点を考えようという事ですので、例題はこのくらいにしておきます。

どちらにしても、私の経験からして、サラリーマンの日常仕事は、半年もきょろきょろして、周りの人がやっていることを見ていれば、すぐにでも日常の仕事はできるはずです。従って、個性を発揮するとか、創造的な仕事をするということは、その会社の型枠形の仕事とは別で、充分自己を発揮したり、自分の頭の中で自由に考えるのは許されるはずですから、サラリーマンの若い方は、上司と大いに摩擦を起こしながら、個性を発揮してほしいと思います。

メーカーで働いていた技術者のOBにこの話をしたところ、技術系であれば、一人前になるためには、特に役所相手の仕事であればなおさらのこと、型枠通りに書類や図面、技術書類などを作り、一人で役所の矢面に立てるには最低でも10年はかかると言っていました。しかも大方の人は、10年たって働き盛りになり、そこからさらに10年働くと、だいたい疲れ果ててしまうのが大多数で、残りの10年で、個性を発揮して、会社に多大の利益をもたらすような人はほんの一握りだとのことです。

これからは働き方も変わるでしょうし、転職も多くなるかと思いますが、どこに転職しようが、それぞれの会社で、それぞれの会社の個性ややり方、伝統などいろいろあり、その分野の一流技術者と自認していても、純粋技術仕事の外側にある環境にも対応出来なければ、世界の一流にはなれないことは言うまでもありません。青色発光ダイオードでノーベル賞をもらった方のような生き方はなかなか簡単にはいきませんが、せめてあの精神だけは心に刻んでおいた方がよいと思います。

そもそも若い方に、手抜きをしたり、いい加減な仕事をしたりという意味ではなく、自分のペースで良い仕事をするために、私は会社の上司はうまくだまして仕事をしろと教えています。そのくらいの個性は発揮してほしいと思います。そこからが勝負です! 若いサラリーマンのみなさん、がんばって良い仕事をしてください!