日本的文化の中での国際化

オリンピックの開催にあたり、当然の事ながら、東京都のスポーツ振興局が中核となって実行委員会の組織作りをするのでしょうが、世界のスポーツの祭典ですから、世界中の国や地域から色々な民族の人たちが集まるわけで、一体どんな組織作りをし、実施するのか非常に興味があります。都のスポーツ振興局のある課長とお話をしたときに、やはり国際的な事業ですから、少なくとも英語でコミュニケーションが図れるような仕組みは最低限必要でしょうねという意見でした。

ちなみに、国連での公用語はアラビア語、英語、スペイン語、中国語、フランス語、ロシア語ですが、「作業言語」としては英語とフランス語のみしか使用しないようです。そうであれば、少なくとも実行委員会事務所内での言語を、基本は英語にすることを実行してみるのはこれからの「国際化」方向からしても、当然ではないでしょうか。

最近では、ASEAN諸国の役所に行っても、担当者は勿論、しかるべき立場の方も普通に英語で通用します。(ASEANの公用語は英語です)

翻って、一般的に日本のお役所でも、海外に関係する組織を例に取ると、国際協力銀行などは、輸出信用の金貸しの世界ですから、借り先は外国、又は日本企業で、外国との取引に関連した場合、我々日本企業との取引でも、外国がらみの書類は原則英語でOKです。いちいち日本語版と英語版を作る必要は無いということです。(ある意味当たり前ですが)

しかし、役所によっては、最初から外国相手の仕事ですから、相手国の言語で書類を作り、それをベースに仕事を進めれば、相手国にとって必要な書類はそのまま利用が出来るので、わざわざ日本語版を作成する必要性が無いケースでも、日本語版を要求される、あるいは当然のこととして、無駄な作業をさせられることはあります。

言語についてもそうですが、更に仕事の進め方についても、微に入り細に入り、すべて、順序に従って詳細なる規則を作り、その枠のなかからちょっとでも外れたことは許さないというケースは多々あります。管理する側からすれば、安心して、自分たちの枠の中で仕事を進められるという安心感があるのでしょうが、特に海外の仕事ともなれば、似たような仕事でも国や中身によって、千差万別、色々なケースにぶち当たります。

役所ですから、マジョリティーをある枠の中に入れて管理するという立場を考えれば、Rules and Regulationsをしっかり作っておくのは分かりますが、仕事の内容によっては、自由な発想で、相手のためになるようなアイデアを出して下さいというような仕事もあります。そんなケースに、最初から役所の枠組みでがんじがらめに縛って仕事をさせても、「なるほど良いアイデアである」といった発想は生まれるはずがないというのが私の主張したいところです。

たまたまNHK BS放送で9月30日に、為末さんが「勝利へのセオリー」というテーマで、ラグビーの日本代表ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズ(Eddie Jones)氏に色々な話を聞いていましたが、大変示唆に富んだ話でした。

彼はオーストラリア・タスマニア州出身のラグビー指導者で、南アの監督もやり、ワールドカップで優勝させています。彼の話は根本的な所から掘り起こして、勝つための方程式を編み出した点で、スポーツのみならず、ビジネスでも全く同様の事が言えるのだと思います。

彼はコーチに就任して、まずは日本人とは何か?というところからスタートし、異なるスポーツの監督から色々と話を聞いたそうです。女子バレーボール、サッカー、ナデシコジャパン、巨人軍等の監督から聞き出した内容は、それぞれ日本選手の特徴や戦術など大変役に立ったそうです。

例えば、バレーボールでは、相手の背が高く、パワーのある選手に対してまともにぶつかっても勝ち目はないのでニッチな狭いところを狙うとか、サッカーや野球では、基本的に日本人はグループ・スポーツで、協力精神が旺盛で、チームワークが非常に良いのが特徴など、参考になったそうです。

ラグビーで彼は、欧米や豪州、ニュージーランドなどの大型でパワーのある選手と同じ事をやっていても勝ち目はない。それぞれのチームの特徴を活かしたチーム作りをしなければ決して上には行けない。そこで、日本の特徴である、パスワークを主体とし、また攻撃面では、オフェンスのメンバーの立ち位置などを工夫し、相手の隙をうまく突いたり、パスを何度も繰り返して波状攻撃をしたりすれば、大柄でパワーのあるチームにも勝てるということを証明した。

また、日本人の欠点も良く見抜いていて、基本的にスタミナ不足で、最後の10分で軽くいなされてトライを取られるので、練習でも一日中練習した後、皆が疲れ果てた頃合いを見計らって、そこから最後の10分間を踏ん張る練習をさせた。

タックルでも、日本人の小さな体で大型選手を倒すために、小柄な格闘家で実績のある選手を、タックルのためのコーチとして招聘し、低い姿勢から高速タックル(レスリングと同様)を取り入れたりした。

普通日本では違う競技の人材をコーチに登用するということはまずやらない。それを必要に応じてフレキシブルに取り入れ、実行する。結果として今まで勝ち目の無かった強豪ウエールズに、今年6月勝利した。

こうした柔軟な発想と、物事の原点から出発する考え方は、スポーツは勿論、ビジネスでは更に重要ではないかと思います。他人のやることをまねしてもろくな結果はなく、自分独自の発想で柔軟な考え方がいかに重要かということに異存はないと思います。

話を戻して、東京のオリンピックでも、金メダルを目標にがんばる選手は勿論ですが、裏方の事務局である実行委員会の運営でも、さすが日本のチームワークの良さと国際化という本来日本人が不得意な内容を具現化して、2020年には新しい日本のスタートが切れるような結果を見せてほしいと願っています。