人間はどうしようもない動物なのか?

人が殺し合うようになるという状況とはどんな時なのかを考えると、個人レベルの話はなかなか難しい。

先日墜落したドイツ機のパイロットの話は「病気」と言って片付ければそれまでだが、そう簡単な話ではない。道連れにされた何も関係ない人はたまったものではない。同様に、アメリカでの銃の乱射など、お国事情によって状況は異なる。我々素人には分析しようにも個別の問題で「あり得ない」現象としか思えない。

日本の学者で、総合研究大学院大学教授の長谷川真理子氏という人類学者がおられます。最初は動物の研究をされていたが、最近は人間、それも殺人に関する研究をされているようです。

その先生によれば、何歳の人たちが殺人を犯すかという欧州での統計では、20歳代がピークで、それからだんだんと下がって行くという結果が出ており、どこの国の統計を取ってもほとんど差がないそうです。

殺人の動機で一番多い理由は、自己の面子を守るが最多で、それも第三者から見ればくだらない理由ばかりです。飲み屋で喧嘩をしたとか、町で歩いていてぶつかったとか、謝らないとかの類です。

それで、人口100万人当りにして何件の殺人があるかを計算してみると、最近の日本では10人、アメリカでは95人、イギリスでは20人ぐらいだそうです。国によって数値は非常に違いますが、どの国、どの文化でも、殺人率は、圧倒的に男性の方が女性よりも高くなっているようです。

日本で1955年に起きた殺人のうち、男が男を殺した273件のうち、190件がくだらない口論によるもの、51件がお金がらみ、29件が性的嫉妬だそうです。

これは「性淘汰」という理論で説明がつくようなものらしいです。性淘汰は、同じ種に属していながらなぜ雄と雌とはいろいろな点で異なるのかを説明する理論で、それには、配偶者の獲得をめぐる同性間の競争と、異性の選り好みという2つのプロセスが作用していると考えられるようです。

人間も、配偶者の獲得競争は女性よりも男性の方が強いので、周りから強い奴と思われたい欲求は男性の方が強いようです。それも20歳代は繁殖に差しかかる年齢なので、具体的な相手がいなくても、何に対しても男性の自己顕示欲がピークに達している時期なので、上述の20歳代殺人ピーク統計が証明されるようです。

性的嫉妬では、男性は女性を殺すことが非常に多く、自分が愛しているのに自分を捨てた女を殺してしまうようです。これは配偶者防衛ということだそうで、簡単に言えば、おまえが産んだ子はほんとに俺の子か?という話です。特に、哺乳類の雄に一般的に見られる行動だそうです。

男性の女性に対するストーカーも、家庭内で夫が妻に暴力を振るうのも、世界的・歴史的に見て、男性が女性を殺すのは、女性が男性を殺す数に比べて圧倒的に多いのだそうです。日本の1955年のサンプルでは、夫婦に限っても、妻が夫を殺したのが24件に対し、夫が妻を殺したのが85件です。この85件のうち62件は奥さんの浮気や家出など、女性が連れ合いの男性を捨てたことによる理由です。つまり、夫が妻をコントロールできなくなった時です。

以上が長谷川教授の説明概要ですが、こう説明されると、要は変な面子やプライドは捨て、屁理屈言わずに「みんな私が悪いのよ」と言えるような人になれば、世の中すべてうまく収まるという事なのでしょうか?

理屈は分かったような気もしますが、学問と実生活とはやはりかけ離れていて、「衣食足りて礼節を知る」の逆で、飯が食えないために盗みやかっぱらい、時には人をあやめるケースが最近は増えているような気もします。

前の統計例でも、日本の人殺しの人口が100万に対して10人と言うことは0.001%ですから、むしろTVの殺人事件で騒ぐよりも、毎日の飯が安心して食えるような心豊かな生活をどうしたら手に入れられるかを考えた方が建設的だということでしょうか。

しかし、国家間あるいは個人の意志とは別に、人殺しをせざるを得ない状況になるような戦争、戦闘といった話は全く別個の話です。これについては、また別の機会に考えましょう。