リビアでの収監事件

西側諸国の外国人が自由に入国できなかった時代、リビアの日本大使館で木曜日の夕方(日本流に言えば金曜日の夕方)からの宴会に招待を受け、現地商社駐在員や通信関係の工事で滞在していた工事関係者などがごちそうになった。

当然お酒も出たので皆さん大喜びで、特にリビアやサウジなど、酒に厳しい国なので、遠慮なしに飲み食いをして、私どもは前回書いたように、麻雀仲間と一緒に借り上げ社宅のマンションで夜中まで遊んでホテルに帰った。後に残った人たちは最後まで食べ尽くして、遅くまで公邸で粘っていたようです。

  • 酒と交通事故で逮捕

翌日金曜日はイスラムの休日なので、ホテルで朝寝をしていたときです。突然外線から電話だというので電話口に出ると、うちの支店長が情けなさそうな声を出して、「迎えに来てくれ」と言う。何が起こったのかよく聞いてみると、今は監獄にいるという!

理由を聞くと、昨晩遅くまで飲んで、帰りは工事関係者が車を持ってきていたので、酔っぱらい運転手に同乗させてもらって、家に送ってもらう途中で軽い接触事故を起こしたのだという。それで、当然運転をしていた日本人は警察に捕まり、彼もすぐに現場から逃げてしまえば済んだものを、運転手のそばについていたので、こいつも酒を飲んでいるということで、同じく警察に捕まったというのが話のあらすじでした。しかも、運転手していた人と彼は別々の監獄に入れられたようだという。

とにかくそういう事情なので、ここまで来てくれ、出来れば文藝春秋などの読み物でも持ってきて欲しいという。大体、工業省とか石油省などは仕事柄場所は分かっているが、監獄などはさっぱり見当がつかないので、よく聞くと、前に大きなスーパーがあるのだそうで、とにかくタクシーの運転手に聞いて行ってもらうしかない。

しかし、その前に、まずは大使に、「昨晩こんな事になっていたようですので、取り急ぎご報告をしておきます」と言うとともに、もしかして、捕まった二人が大使館で酒を飲んでいたことを話してしまっている可能性もありますので、その点もお含み置き願いますということで、詳細は後刻報告することにし、タクシーを捕まえて監獄に向かった。

やっとの思いで目的の監獄を探し当て、事情を話すと、日本人は一人だけ!(当然でしょう)なので、すぐに案内してくれた。独房で結構風通しはいいし、新しい毛布もちゃんとしているし、私のホテルより涼しそうで結構な居心地のようだから、しばらくお世話になったら?などと冗談を言っていたが、「今日は金曜日なのでお偉いさんもいないし、何もしてやれない。明日裁判所の方に他の犯罪人とともに連れて行くので、そちらで話してくれ」と言う。また、差し入れの雑誌も許可できないというので、「座禅でも組んで一日ゆっくりして下さい」と言い残し、ホテルに帰った。

その後、明日の裁判所での対策を練ろうと、工事事務所の所長に電話をしたが、彼もどうしていいか分からないというので、ホテルに来てもらい、話し合った。「あなたはアジアなどでもこういう事件にも慣れているので、よろしくお願いします」と言い、「金などがかかるかもしれないが、その方は任して下さい」と言うので、分かったが、大使館の方には連絡したか聞いたが、まだとてもそんな方に気が回らなかったという。とにかく明日朝、一番で裁判所で落ち合うことだけを約束し、私は会社で雇っている顧問弁護士に連絡し、明日朝、裁判所に来てくれるよう依頼して、金曜日は終わった。

土曜日の朝、裁判所に行くと、顧問弁護士も来ていて、基本的にどのようなスケジュールで事が運ぶのか聞いてみると、多分ここで簡易裁判が行われ、即日結審するという。他の犯罪人も同様の筋道のようだが、どうやらこそ泥とかが多く、殺人犯とかの重要犯罪人ではなさそうであろうことは分かった。

それでも心配なので、顧問弁護士に、これから日本人の裁判を担当する裁判官に、ほんの1~2分で良いから会わせてもらうよう頼んでくれと無理を聞いてもらった。彼は裁判官のところに行って、すぐ早足で戻ってきて、私の手を引っ張って、「ちょっとだけOKを取ったので急げ」と言うので、彼と二人だけで裁判官に立ったままで面談した。

私から急いで、一言、「酒を飲んでいたのは申し訳ないが、彼らはこの国の国家プロジェクトをやりに来ている人たちで、何とか寛大なる裁きをお願いしたい。勿論出た結果は国外追放であれ、実刑であれ、従いますので、よろしく」とだけ手短に伝えて、犯罪人!?の到着を待った。現地の犯罪者とともに、日本人も腰に鎖を回され、手錠をかけられて、ぞろぞろと護送車から降りてきた。そのまま法廷に入っていった。

中庭で、顧問弁護士や工事事務所長などと結果を待っていたが、小一時間経った時に、彼らがにこにこしながらこちらにやって来た。説教を受けた上で、無罪放免、おとがめなし、という結果だった。日本だったら、酔っぱらい運転で、免停まで行かなくても、少なくとも罰金刑くらいは食らいそうなものだが、本当に無罪放免で済んでしまった。

それから皆で事務所に帰り、工事事務所の所長に、「ところで、金がかかったらそちらで何とかするとか言っていたよね!」と言うと、怪訝そうな顔をして、「どこで金がかかったのですか? 裏金でも渡したのですか?」と言うので、「とんでもない。あんなところで裏金など渡したら、それこそ今度は本気で豚箱に放り込まれるよ! 金は後始末に使うので、これから皆で飯食い会をやって、今後このようなことが起こらないように反省会をやります」。ということで、彼のおごりでごちそうになり、大使館にも結果報告をして、一件落着となった。

多分、本件このまま何もしなくても似たような結果になっていたかもしれませんが、やはり海外での事件、特にこちら側に非がある場合などは、早急に出来ることはすべて手を尽くしてやるというのが鉄則かと思います。何もしないで、運を天に任せるということもよくありがちですが、何かしら出来ることはあるはずです。